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【書評】自己管理は「頑張ること」ではなく「仕組みをつくること」『エンジニアのための自己管理入門』

2026-08-29 作成

注記

本記事で取り上げるのは、小田中育生『エンジニアのための自己管理入門 堅牢でスケーラブルな働き方を構築する技術』(翔泳社)です。

以下は本を読んで自分が考えたことをまとめたものです。本の要約を目的にしたものではありません。

記載に誤りや、権利・内容面で気になる点がありましたら、Xまでお知らせいただけますと幸いです。

はじめに

エンジニアとして働き始めて数年が経ち、あらためて自分の働き方を見直したくなり、『エンジニアのための自己管理入門』を読みました。

結論、とても良い本でした。
自己管理まわりの本はこれまでにも読んできましたが、その中でも特に良い一冊です。
こんな方には、特におすすめしたいです。

  • 差し込みのタスクで予定が崩れる
  • 1 週間の終わりに達成感がない
  • 自分で変えられることと、そうでないことを切り分けられず、消耗している

どんな本か

本書では、セルフマネジメントに関する幅広いテーマが扱われています。
章の構成は以下のとおりです。

  • 第 1 章 モチベーションマネジメント
  • 第 2 章 タスク・タイムマネジメント
  • 第 3 章 アンガー・ストレスマネジメント
  • 第 4 章 スキルマネジメント
  • 第 5 章 キャリアマネジメント
  • 第 6 章 セルフマネジメントがチームを強くする

「なぜうまくいかないのか」「どうとらえればいいのか」「どんな対処法があるのか」といったことが、理論や具体例を交えながら整理されています。
章の終わりには、エンジニアとマネージャーそれぞれの視点からの Tips が置かれています。
なお、扱っている理論はどれも職種を選ばないので、タイトルは「エンジニアのための」ですが、他の業界・職種でも参考になると思いました。

全体としては、一つひとつのテーマを深く掘り下げるというより、さまざまな考え方を一冊で広く知る、という印象です。

ちなみに、それぞれのテーマをより深く扱った本もありますが、すべてを追っていくには、それなりに時間がかかると思います。

また、自分ではタスクマネジメントの問題だと思っていたことに、実はモチベーションや目標設定など、別の要因も関係しているかもしれません。

だからこそ、まずは一冊でさまざまな考え方に広く触れられることにも、本書の良さがあると思いました。

なお、記事の最後に、これまで読んだ自己管理まわりの本の中で、特に良かったものも参考までに載せています。

ここからは、本書の中で特に印象に残った 3 つのことについて書いていきます。

1. モチベーションを感覚だけで扱わない

幅広いテーマの中でも、本書は第 1 章を丸ごとモチベーションマネジメントに充てています。

そもそも「やる気が出ない」と感じることはあっても、なぜ出ないのかは、説明できないことの方が多いと思います。
その説明にあたる理論や考え方が、いくつか紹介されていました。
ここでは 2 つ取り上げます。

ERG理論

ERG理論は、人の欲求を 3 つに分けてとらえる考え方です。
本書には、この 3 つをソフトウェアエンジニアの文脈に対応づけた表が載っていました。

  • 存在欲求(Existence): 賃金、労働時間、労働環境
  • 関係欲求(Relatedness): 信頼、つながり、帰属意識
  • 成長欲求(Growth): 技術的挑戦、裁量、自己実現

たとえば、1 週間の終わりに達成感がないときも、「何が満たされていないのか」を考える一つの観点になります。
存在欲求なのか、関係欲求なのか、成長欲求なのか。どこに目を向けるかで、考えられる打ち手も変わるかと思います。

期待理論

もう一つ、ブルームの期待理論を使って分解する考え方も出てきます。
やる気をひとかたまりで見るのではなく、モチベーションを「期待 × 道具性 × 誘意性」のかけ算として整理しています。

  • 期待: 頑張れば成果につながると思えるか
  • 道具性: その成果が欲しい結果につながると思えるか
  • 誘意性: その結果を自分が魅力的だと思えるか

ただ頑張るだけでは解決せず、どこが欠けているのかを見る必要があります。

ERG理論も期待理論も、感覚でしかなかったものを、いくつかの観点に分けて考える枠組みを与えてくれます。
分けてみると、足りないのはやる気そのものではなく、その手前の条件だったと気づきました。
読んでからは、「どうすればもっとやる気を出せるか」ではなく、「どういう条件なら自然と取り組みやすくなるか」を考えるようになりました。

2. 経験に名前がつくと、とらえ方が整理される

読んでいて、『ノンデザイナーズ・デザインブック』で紹介されている「ジョシュアツリーの法則」を思い出しました。
名前を知ることで、それまで見えていなかったものを認識しやすくなる、という話です。

本書にも、それに近い感覚が何度もありました。

「時間どろぼう」と「チリ積婆」

たとえば本書では、集中を奪ってくるものを「時間どろぼう」と呼び、種類ごとに整理しています。

その中の一つが「チリ積婆」です。

「これだけ片付ければ楽になる」と、小さな雑務を次々に差し出してきて、気づけばまとまった時間を使ってしまう現象です。

仕事でもよくあります。

  • 少しだけSlackを返信する
  • 小さな修正をする
  • その場で返せそうな相談に対応する

一つひとつは数分で終わります。

ただ、積み重なると、まとまった時間を使いたかった仕事になかなか入れなくなります。

こうした現象自体は、これまで仕事をする中でも経験していました。

ただ、経験していたことに名前がつくと、

  • 「今これが起きている」と認識しやすくなる
  • 他の人と共有しやすくなる
  • 対策を考えやすくなる

というメリットがあると感じました。

3. 周りを支えるために、まず自分を整える

本書の「おわりに」で、著者は執筆のきっかけをこう書いています。

マネージャーは、メンバーやチームを優先し、自分自身のことを後回しにしがちです。けれども、まず自分自身をマネジメントするべきなのではないか? そんな問題意識が、本書の出発点になりました。

(小田中育生『エンジニアのための自己管理入門』翔泳社、おわりに)

強く共感しました。

メンバーやチームのことを考える時間が増えるほど、自分自身について振り返ることは、つい後回しになりがちです。

けれど、誰かの困りごとを一緒に考えるときにも、自分自身の価値観や経験は、ものの見方や判断に少なからず影響すると思います。

その際、自分が何を大切にしていて、なぜそう考えるのかを自覚していないと、自分にとっての「当たり前」を、知らないうちに相手にも当てはめてしまうことがあります。

だからこそ、周りを支える立場になるほど、まず自分自身を振り返り、自分の考え方や状態を理解しておくことが大切なのだと思いました。

まとめ

この本を読んで一番良かったのは、自分の頑張りだけで何とかしようとしなくてもいいと思えるようになったことでした。

振り返ってみると、自分の場合、特に消耗していたのは、自分で変えられることと、そうでないことをうまく切り分けられず、一人で何とかするのが難しいことまで、自分で何とかしようとしていたときでした。

けれど、起きていることに名前がついていたり、その背景にある理論を知っていたりすると、状況を言葉にしやすくなり、自分では変えられないことと、工夫できることを切り分けやすくなります。

そのうえで、自分で変えられるところに手を入れていく。
自分を気合いで動かそうとするのではなく、自然と行動しやすくなるように、仕事の進め方や環境を整えていく。

そう考えると、自己管理とは、自分を頑張ってコントロールすることではなく、継続して力を発揮できる仕組みを少しずつつくっていくことなのだと思います。

一度に完成するものではないからこそ、この本も一度読んで終わりにするのではなく、ときどき読み返しながら、そのときの自分に必要なものを拾っていけたらと思います。

自己管理まわりで読んできた本

本書の内容と重なるテーマで、これまでに読んできた本を挙げてみます。

タスク・タイムマネジメント

  • SINGLE TASK 一点集中術

    マルチタスクは同時処理ではなく、注意の切り替えを繰り返しているだけだという前提から入る本です。一度に 1 つのことへ注意を向けるための考え方と方法がまとめられています。

  • 超集中力

    集中力を保つ方法を、食事・睡眠・場所・運動・時間といった切り口からまとめた本です。その場で試せる知識と、すぐに効果が出るワークが載っています。

アンガー・ストレスマネジメント

  • 心の疲れをとる技術 特におすすめ

    心のエネルギーをどう使い、どう回復させるかを扱う本です。自衛隊でメンタルヘルスの教官を務めた著者が、ムリを重ねる・感情を浪費する・やる気にムラが出るという 3 つを切り口に、心身を疲れさせない整え方を示しています。

スキルマネジメント

  • イシューからはじめよ[改訂版]

    解き始める前に「そもそも解くべき問いか」を見極めるところから始める本です。イシューを分解してストーリーを組み立て、分析し、伝えるところまでの進め方が一本の流れとしてまとめられています。

  • エンジニアの知的生産術

    ソフトウェアエンジニア向けに、学び方・記憶・読み方・考えのまとめ方・何を学ぶかの決め方までを扱う本です。数々の知的生産術を比較することで、自分の環境に合わせて手法を組み替えられるようになることを狙いにしています。

  • 複利で伸びる1つの習慣

    習慣を「きっかけ・欲求・反応・報酬」の 4 ステップでとらえ、そこから 4 つの行動変化の法則を導く本です。毎日 1 パーセントの改善が複利で積み上がるという考え方を軸に、すぐ実行できる形で手順がまとめられています。

キャリアマネジメント

  • ITエンジニアの転職学 2万人の選択から見えた、後悔しないキャリア戦略

    IT エンジニア転職の専門エージェントが、2 万人分の年収・キャリアデータをもとに書いた転職の本です。年収の上げ方、業態別・年代別のキャリア戦略、職務経歴書の書き方や面接・条件交渉まで扱っています。

  • エンジニアのためのマネジメントキャリアパス

    メンターからテックリード、エンジニアリングリード、技術部長、CTO や VP まで、立場ごとに求められる役割を段階を追って定義していく本です。管理職の採用や評価、うまく回らなくなったチームの立て直し、管理職になってからの技術力の保ち方も扱っています。

  • 優れたエンジニアがコミュニティの中でしていること

    技術コミュニティを成長の場としてどう使うかをまとめた本です。活用法ごとに具体的なアクションプランが付いていて、コミュニティを通じてキャリアを広げたエンジニアのインタビューも収録されています。

チームとの関わり

  • チームの成果をワンランク上げる仕組み 遊ばせる技術 特におすすめ

    指示に従うだけの社員が増えてしまう職場で、どうすれば自律が進むのかを扱う本です。仕事に「遊び」を持ち込んで面白さを実感してもらう、という切り口から、管理職にできることを事例つきで示しています。

  • アオアシに学ぶ「答えを教えない」教え方 特におすすめ

    サッカー漫画『アオアシ』の場面を題材に、「答えを教えない」教え方を読み解く本です。目標を渡して考えさせるだけでは相手が混乱するとして、自分で考えられるようになる「お題の出し方」を扱っています。

健康

  • シリコンバレー式 最強の食事

    何を食べるかが体と頭の働きを左右するという前提で、食事のとり方をまとめた本です。著者が自分の体で試した結果をもとに、何を・いつ食べるかを具体的に示しています。

  • 脳を鍛えるには運動しかない! 特におすすめ

    運動が脳にどう働くかを、神経科学の視点から解き明かす本です。学習能力だけでなく、ストレス・不安・うつ・注意散漫・依存症・加齢まで、運動が生活全般に及ぼす影響を扱っています。

  • スタンフォード式 最高の睡眠

    睡眠は時間ではなく質で決まるという前提から、眠りはじめの「黄金の 90 分」を軸に眠り方を扱う本です。スタンフォード大学で睡眠研究所の所長を務める著者が、寝つきの悪さや朝の目覚め、日中の眠気への対処までまとめています。

参考資料

本書の内容の一部が、著者のスライドでも公開されています。